名古屋大学医学部保健学科 理学療法学専攻 河上&宮津研究室

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研究内容

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機械刺激に対する筋の形態応答

長期臥床やギプス固定などの不活動状態によって骨格筋は萎縮します。これまで筋萎縮を軽減する様々な方法が検討されています。本研究室では筋力トレーニングやストレッチングによって筋に加わる機械刺激に着目し研究を進めています。その一つとして、ラット除神経筋に対して、周期的な伸張刺激を加えることにより萎縮を軽減出来ること、またこの伸張刺激による筋萎縮軽減には、筋肥大に関係する細胞内シグナルの活性が関与することを明らかにしました。また最近では刺激時間や刺激強度が設定でき、定量的な伸張刺激を加えることが出来る小動物用足関節運動装置(バイオリサーチセンター)を開発しました。この装置を使用し、刺激強度や刺激時間、また刺激周波数によって筋萎縮軽減効果が異なることを明らかにしてきました。今後はこれまで動物実験によって蓄積してきたデータを基に、ヒトを対象とした研究へと発展させ、臨床応用が可能な効果的な伸張刺激方法の開発へと展開させていきたいと考えています。

小動物用足関節運動装置の概要

Aは装置の模式図を示す。麻酔下でラットを側臥位にし、足底を足底板に接着させる。コントローラーで制御されたステッピングモーターが回転することで、ラットの足関節が底背屈する。このとき、回転軸に取り付けてあるトルクセンサーによって足関節加わるトルクを検知し、一定のトルクが加わるように制御している。Bは、コントローラーで制御し、一定のトルク(6 mNm)で足関節を他動的に背屈させたときの、足関節に加わるトルク値を示す。この装置を用いることで骨格筋に常に一定の伸張力を加えることができる。

損傷筋に対する理学療法の効果とそのメカニズム

筋損傷は、外傷や外科手術後、筋ジストロフィーをはじめとする神経・筋疾患において観察されるだけでなく、高強度の運動や遠心性収縮後に起こることがよく知られている。筋損傷を持つ患者さんが、ADL能力の早期獲得や、スポーツ競技に復帰するためには、できるだけ早く筋損傷を回復させる必要がある。

そこで本研究室では、小動物用足関節運動装置を改良して、遠心性収縮による再現性のある筋損傷モデルを作製し、筋損傷からの回復過程の定量的な評価を試みた。その結果、筋損傷からの回復過程を組織学的にも、機能的にも定量的に評価できるようになった。

確立した再現性の高い筋損傷モデルラットを用いて、筋損傷からの回復促進に最も効果的な理学療法の種類や強さ、それを与える時期や期間を明らかにするとともに、回復促進のメカニズムに関わる筋衛星細胞の活性や、筋構成タンパク質の合成について検討を進めています.

電気刺激を与えながら足関節を他動的に底屈させる遠心性収縮2日後の前脛骨筋の筋腹全体の横切断面。赤く見える筋線維が遠心性収縮運動により、細胞膜の壊れた筋線維(Evans Blue 陽性筋線維)を示す(Bar= 50 µm)。

筋力増強運動による筋萎縮からの回復促進効果やそのメカニズムに関する研究

長期闘病の患者さんや高齢者に多くみられる筋萎縮は、筋力低下を招き、活動制限や寝たきりなどの原因となる。活動制限や寝たきりになると、さらなる廃用による筋萎縮を引き起こすという悪循環へと陥る。この悪循環を断ち切って健康な生活に戻すためには、筋萎縮からの早期回復が重要な課題である。その方法として、レジスタンストレーニングなどの筋力増強運動が行われている。しかし、筋力増強運動による筋萎縮からの回復促進メカニズムには不明な点が多く、筋力増強運動の効果を正確に判定することが難しい。そのため、どのような方法で運動を行えば、より早く、より効果的に筋萎縮を回復させることができるか明らかになっていない。

本研究室では、筋萎縮からの回復促進に最も効果的な筋力増強運動の条件を決定する基礎的研究として、オペラント学習法により立ち上がり運動を自発的に行うモデルマウスを開発し(Fig.1)、筋萎縮に対する筋力増強運動の効果を明らかにする研究を行っている。これまでに、このモデルマウスによる実験から、萎縮した筋の回復が運動を行わない場合よりも早く起こることを明らかにしてきた。現在は、その回復促進効果のメカニズムを詳細に明らかにするための研究を進めている。

Fig.1 オペラント学習法による立ち上がり運動

A:オペラントケージおよびプログラムショッカーからなるオペラント学習装置の概略図。プログラムショッカーの制御により、壁面のスピーカーと電灯からの3秒間の音・光刺激の後、床面にある金属製の電流刺激グリッドから電流刺激が発生する。電流刺激中に壁面のスイッチレバーを押すと電流刺激は止まり、音・光刺激中にスイッチレバーを押すと電流刺激は発生しない。マウスを本装置に入れ、プログラムを繰り返し行うと(B)、電流刺激が発生する前の音・光刺激中に立ち上がり、スイッチレバーを押す行為を習得する(B

培養細胞を用いた機械刺激や運動効果のメカニズムの解明

チックの初代筋管培養細胞やC2C12を用いて、筋細胞の肥大・萎縮・萎縮からの回復について調べています。これまでに多くの筋の研究がされており、筋肥大のメカニズムが分子レベルで解明されてきました。また、スポーツ現場でも科学的根拠に基づいた筋肥大に効率的なトレーニングが用いられています。しかし、それらの多くは健康な筋を対象とした研究に基づくものであり、実際の臨床において健康な筋を対象とすることは多くありません。我々は培養細胞を用い、これまでに行ってきた動物による実験結果をさらに詳細に解明すべく、病態を持った筋に対する機械刺激や運動の効果やメカニズムの研究にチャレンジしています(図はチックの初代筋管培養細胞)。

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